発達障害重ね着男の備忘録

発達障害(ADHD、ASD)持ち。備忘録的に継続して行く事が目標です。

[書評、のようなもの]村上春樹 「もし僕らのことばがウィスキーであったなら」

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こんにちは。
今日は、書評のようなものを載せようと思います。書評になっていれば、の話ですが…

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本題に入る前に

僕は、普段から読書を習慣としているような人間ではない。
また、最近は必要に駆られても、ネットで情報を集めるか、kindleで購入するかのいずれかだ。
そんな僕が、紙媒体の文庫本を、しかも書店に在庫がないためAmazonを使ってまで購入したのが、この「もし僕らのことばがウィスキーであったなら」である。

この本を買ったきっかけは、単純に僕自身ウィスキーが好きだからである。
また、生まれ故郷にはウィスキーの蒸留所があることも手伝って、かなり前から読みたいとは思っていたのだが、あまり村上春樹氏の著作に親しみがなかったことや、書店での取り扱いが少なかったこともあって、なかなか購入までは至らなかった。

しかし、発達障害が発覚後、睡眠薬まで処方されてしまった僕は、基本的にアルコール類を摂取できなくなってしまった。(それでも、たまに友達などと飲んだりはするが、その時は睡眠薬は飲まずに寝ている)そうなると、ウィスキーが飲みたくて仕方がない。そんなせめてもの気持ちを晴らそうと、ウィスキーにまつわるこの本を購入したわけである。

この本は、村上春樹氏が著名なウィスキー、シングルモルトの産地であるスコットランドアイラ島と、アイルランドを旅行された際の旅行記でもあるのだが、随所随所に考えさせられる表現があった。今回は特に2点について僕なりに考えてみたので、本文を引用しながらご紹介したい。

「旅」というものについて

“無目的にただぶらぶらと旅してまわるのももちろん楽しいけれど、経験的に言ってある程度そういう目的みたいなものがあったほうが、旅行はうまく運ぶことが多い”

前書きにて、村上春樹氏は上記のような表現をしている。

これは、学生時代に徒歩旅行などをしていた自分にも思い当たる節はある。
その旅にテーマがあれば(自分が決めたにしろ、他人が決めたにしろ)、どこがその旅のハイライトとなるのか、そのポイントを各自共有できる。また、事前にその旅がどんなものになるのか(なりそうか)想像することができるし、当然事前の下調べも容易だ。「こんなはずじゃなかったのに」というような場面はぐっと減ることだろう。いわば、「ある程度確信を持った仮説を立証する研究過程」のようなものなのだ。そういう意味で、氏は「うまく運ぶことが多い」という表現を用いているのだと思う。

しかし、無目的な旅には魅力がないかというと、氏も述べているようにそうではない。
何も考えず無目的に行く旅とは、すなわち「旅をする」ということ自体が目的なのだ。旅をする、その過程に思いがけない発見があり、また思いがけない終着点に行き着く。もちろん、その過程に新しい発見がなかったり、終着点がグダグダになる場合も大いにあるだろう。そういった博打的な要素を含んだリスキーな魅力が無目的な旅にはあり、それは「主題を後に決める旅」となりえるのではないか、などと逆説的なことを考えてみた。

年月が得るもの、年月が失うもの

“多くの人は年数が多いほどシングルモルトはうまいと思いがちだ。でもそんなことはない。年月が得るものもあり、年月が失うものもある。蒸発が引くものもあり、蒸発が加えるものもある。それはただの個性の違いに過ぎない。” (アイラ島ラフロイグ蒸留所マネージャー、イアン氏の言葉)

ウィスキーをよく知らない人は、「なんのこっちゃ」と感じるかもしれない。
一般的にウィスキーは樽の中で熟成される年数が多いほど、樽の風味が染み込み、アルコールも程よく抜け、美味しくなるとされ、高級品になる。

しかし、この風潮にラフロイグ蒸留所のマネージャー、イアン氏は一石を投じているわけだ。それは個性の違いでしかない、とまで言い切っている。
これは、何年ものであろうとも、常に最良のウィスキーを作っているというプライドから出た言葉と推測されるが、なにもこれはウィスキーに限った話ではない。

私たち人間は、経験や知識を蓄えるほど社会的に評価され、それに見合った報酬を受け取るようになる。これは、ウィスキーと同様である。しかし、一方では、ウィスキーで言うところの「樽の風味の染み込みの少なさ」や、「アルコール」といった部分は失われてくるのではないだろうか。

私たちは、過去や現在、未来を比較し、未来によりよくあろうとし、知識や経験を求める。ウィスキーで言うところの、「高級品」を目指して人生を歩む。

しかし、その一方で、何かが失われているのかもしれない。イアン氏の言葉を借りるのならば、それは「個性」の違いなのだ。自分ですら、年齢を重ねるにつれ違う個性を持つようになるのだ。そこにいいも悪いも存在しない。そこにある自分にプライドを持てばいい。そんなメッセージを僕はこの1節から感じ取った。

終わりに

この作品は、紀行文としても、シングルモルトウイスキーの紹介文としても、また人生の指南書としても非常に読み応えのあるものだと言える。
ただひとつ、惜しむらくは、シングルモルトウイスキーは、それがアイラ島のものであろうがアイルランドのものであろうが、スコットランドだろうが日本だろうがカナダだろうが、とにかく価格帯が高いのだ。とても「ゆとり世代」が常飲できるようなものではない。
僕は、1人でバーに行くことができるようなタイプではないため、さらに飲む機会は限られる。父の誕生日に、地元蒸留のシングルモルトを購入し、それにかこつけて一杯いただいたくらいのものだ。
個人的な願望を言えば、村上春樹氏にはブレンデッドウィスキー(価格帯が安いもの)についても紹介してほしい、一読者として、一ウィスキー好きの人間として、一小市民として、そんなことを願うばかりである。





今回も最後まで読んでくださった方、ありがとうございました、